電通大、量子ドット太陽電池で励起子を高効率で生成するプロセスを解明

 電気通信大学(電通大)は、科学技術振興機構JST)課題達成型基礎研究の一環として、同大学の沈 青 助教(先進理工学専攻)らが、次世代太陽電池として期待される量子ドット(ナノスケール半導体太陽電池で、光から電流を起こす担い手である励起子を高効率で生成するプロセスの解明に初めて成功したと発表した。

 量子ドット太陽電池は、集光時の理論効率は60%以上ともいわれる高効率次世代太陽電池として注目されている。

 量子ドット太陽電池の強みは、これまで活用できなかった幅広い波長の光吸収を行えることと、高いエネルギーの光を熱エネルギーとして損失する前に励起子(高いエネルギー状態にある電子・正孔の対)生成に活用できることにある。
 どちらも従来の太陽電池ボトルネックを解決するものだが、高エネルギー光を活用するには、通常1光子に1つしか取り出せない励起子を、複数取り出すことができる多重励起子生成(MEG)の発現が鍵となる。
 しかし、MEGがどのような条件で発現されるのか、ということはこれまで詳細に解明されておらず、実用化の妨げとなっていた。

 今回、沈助教らは独自に開発した測定法を用いて、硫化鉛(PbS)量子ドットが光を吸収したときの屈折率変化の測定に挑戦し、MEGの発現から収束、消滅するまでのピコ秒(1兆分の1秒)オーダーのプロセスをとらえることに、世界で初めて成功した。
 その結果、MEGの発現に利用できる光エネルギー域は、量子ドットのバンドギャップ・エネルギーの2.7倍以上であること、太陽電池として利用するには、収束までの数10ピコ秒以内に電子と正孔に電荷分離させる必要があることが判明した。

 この研究によって、MEGの発現に関わる一連のプロセスの詳細が観測できたことにより、量子ドット太陽電池の開発に必要不可欠なMEG発現の定量的な基礎データを得ることができたとのこと。

 今後は、ナノ結晶中で生成した励起子を外部に取り出す手法の確立などのデバイス化に向けたステップを経て、近い将来、量子ドットMEG型太陽電池で理論効率40%超に迫る展開が期待される。

 この研究成果は、欧州科学誌「Chemical Physics Letters」のオンライン速報版で近く公開される予定。